タンポポだより
>>タンポポだより >>  「・・・小唄・・・」
 


久し振りに小唄が聞きたくなりました。
9月末、酣春会(かんしゅんかい)があると
長年の仲良し…B子さんから聞いて二人で三越劇場に行きました。

その昔、私の先生、千紫章恵師匠が酣春会について仰ってらした。
    「信子ちゃん、この会に出演するということわネ、
    とても名誉なこと、光栄なことなんだよ。
    上手な人ばかりが選ばれるんだからねぇ」

客席を見渡してB子さんと目と目が合う。思いは同じ。切なかった・・・。

私は目をつぶって小唄を聞きながら昔を思い出しました。
私はまだひよっこで若手。
章恵師匠の楽屋に伺うと、すでに芸の火花が散っていました。
出演前には必ず小さな声でおさらいをする慣習があります。
ライバルの唄も聞こえます。
顔には出てなくても、どの位ライバルの腕が上がっているのかわかります。
芸を競うって真剣勝負、凄い世界だと思いました。

千紫千恵家元や蓼派の会長胡満喜師匠がゆったりとおっとりと
楽屋に入る入口に腰かけていらっしゃいました。
皆さん丁寧にお辞儀をして通る。
お二人の周りの空気はピリッとしていて、重厚な雰囲気がありました。
私はお二人に声をかけられました。
    「あら〜信子ちゃん来てたの〜」笑顔の胡満喜師匠です〜。
続いて家元も、
    「テレビ見てるよ!信子ちゃん〜(笑)」
声をかけられ嬉しかった〜。

急いで客席に戻ると、もう場内はいっぱいのお客様。
後ろで立っていらっしゃる方も多い。
最後には各派の家元が次から次へとお唄いになる。
大向こうからも声がかかります。
「待ってました!」「よぉ、たっぷり!」「日本一!」「うまい!」
時には、「男殺し〜!」ナンテ声がかかったりして(笑)
お客様の笑いが広がっていました。
大らかです。お客様も男性が多く華やかな雰囲気でした。
だんだん熱を帯びてくる。唄い終わり幕が下りる・・・。
そして、観客の何とも言いようのない響めき!!
「ふっ〜〜」とか「ハァー!」とか溜息が聞こえるんですね。
スゴイです。そして、大きな拍手も〜〜。
「いい唄を聞かせて貰った〜ありがとうございます〜!」みたいな、
そんな感じだったんですね。

 

 

   
 

 


小唄も約30年してきて、名取と師範のお免状も頂きました。
ジャズも歌ってたんですけど・・・楽しいけど・・・・・・。
ナンカやっぱり小唄も唄いたいな、もう一度勉強したいと思いました。
でも、家元も章恵師匠もお亡くなりになっています。
ですから、日本橋の家元の娘さん伊登恵師匠にお願いしました。
2年間ぐらいでしたけれどもお稽古をつけていただきました。
養女の郁子さんもそばで聞いていました。

千紫でなければ唄えない、粋で間が良くて、
そして切れ味のいい小唄を何としてでも覚えたい。
例えば、
「翠帳紅閨」「雪はしんしん」「お清しゃもじ」「並木駒形」「神楽ばやし」など。

ある日、稽古中でしたけど私言いました。
    「私はもう何十年も自分勝手に唄ってきましたから
    お三味線と合いませんねぇ〜
    師匠、私の唄はダメですね〜スミマセン〜自己流で〜」
    「いいよ、いいよ〜信子ちゃん〜信子流で唄ってちょうだい!」
    「いいんですか、そんなこと。」
    「許す!」間髪をいれず仰った。

その一言がお侍さんみたいで〜(笑)
三人で笑ってしまいました。幸せな笑いでした!

今年のはじめ伊登恵師匠も郁子さんも続いてお亡くなりになりました。
本当に寂しい…。

 




 

「信子流でいい!許す!」
その言葉を励みに、自分で下手なお三味線を弾いて、
一人小唄を続けていこうかなぁ〜(笑)
そう思っています。

やっぱり、小唄は好き。


宮本 信子

 

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